
ヘンプクリートとは
ヘンプクリートは、麻(ヘンプ)の茎から得られる繊維質(ヘンプハスク)と石灰系バインダーを組み合わせてつくる、次世代型のエコ建材です。天然のヘンプハスクをライムと水で練り固め、型枠で成形して乾燥させるだけのシンプルな製法ながら、建築現場で高いパフォーマンスを発揮します。
断熱性・調湿性
ヘンプハスクの多孔質構造が空気を多く含むため、コンクリートやグラスウールを上回る断熱性能を発揮します。また、調湿機能に優れ、室内の湿度を自然にコントロールすることでカビや結露を抑え、心地よい空間を維持します。
軽量かつ高耐久
コンクリートに比べて約1/5~1/3の軽さで、建物の構造部材にかかる荷重を抑えられます。適切な仕上げを行えば、長期にわたり性能を維持できる耐久性も魅力です。
CO₂固定化(カーボンネガティブ)
ヘンプは成長過程で大量のCO₂を直接吸収できる植物。建材として壁体に組み込むことで、そのまま「炭素を閉じ込める」役割を果たします。結果として、製造段階で排出されるCO₂を上回る量を固定化する「カーボンネガティブ建材」として注目されています。
不燃・耐火性能
石灰系バインダーが主成分のため、ヘンプクリートは高温下でも燃えにくく、準耐火建材として建築基準法の耐火性能要件をクリアしやすい点も大きな特徴です。
利用メリット
ヘンプクリートを採用することで得られるメリットは
大きく三つの視点から説明できます。
環境面
天然素材であるヘンプは、作付から収穫までが短期間で完了し、繰り返し栽培できる再生可能資源です。
さらに、成長過程で大量のCO₂を吸収し、建材化後もその炭素を長期的に固定するため、地球温暖化対策として非常に有効です。
健康面
ヘンプクリートには揮発性有機化合物(VOC)がほとんど含まれないため、シックハウス症候群の原因となる有害物質を室内に放散しません。さらに、調湿性能により湿度を最適化し、カビやダニの発生を抑制。アスベスト代替材としても注目されており、健康的で快適な室内環境づくりに貢献します。
経済面
高い断熱性能を活かすことで、エアコンや暖房機器の稼働時間を減らし、年間エネルギーコストを10~20%程度削減できると報告されています。壁内部の結露を抑える調湿機能が建物の劣化を防ぎ、メンテナンスコストも低減。また、省エネ性能向上を理由に補助金や税制優遇を受けられるケースも増えており、初期投資を短期間で回収しやすい点も魅力です。
国内外の導入事例(海外事例メイン)
日本国内ではまだ数少ないものの、欧州を中心にヘンプクリートの採用例が増えています。
以下に代表的な海外事例を紹介します。

フランス・ドゥー県の断熱住宅リノベーション
担当企業:Saint-Gobain Weber(ウェーバー)
既築の石積み住宅に壁厚40cmのヘンプクリートを吹き付ける断熱改修を実施し、冬の暖房用木質ペレット消費を約40%削減しました。詳細は以下のURLをご覧ください。
Case Study 06 – Energy-efficient house in the Doubs
https://www.fr.weber/en/case-study-06-energy-efficient-house-doubs

フランス・パリ郊外のスポーツセンター
担当企業:Lemoal Lemoal(ルモアール・ルモアール)
木造フレーム構造+ヘンプクリート壁を採用した新築スポーツ施設。曲線デザインを多用しながら、断熱性・調湿性・吸音性を同時に実現しました。
Pierre Chevet Sports Center | 5 Projects Using Hempcrete
https://www.arch2o.com/5-projects-using-hempcrete-environmental-material/

イギリス・ダービーシャー州の新築住宅
担当企業:UK Hempcrete
ヘンプクリートを断熱材と内外壁材として用いた一戸建て新築プロジェクト。年間の一次エネルギー消費量を従来比で75%以上削減しています。
Case Study: New Build Hempcrete House, Derbyshire
https://www.ukhempcrete.com/case-study-new-build-hempcrete-house-derbyshire/

イギリス・ロンドンの増築プロジェクト
担当企業:UK Hempcrete
セルフビルドで実現した約28㎡のコンパクト増築。高い断熱・調湿性能を示し、ヘンプクリートの手軽さと効果を実証しました。
Compact Hempcrete Extension, London
https://www.ukhempcrete.com/case-study-compact-hempcrete-extension-london/
市場動向・ビジネスチャンス
断熱材市場全体が約2兆円規模で、そのうち天然素材系断熱材が約2,000億円を占めています。リフォーム市場は約12兆円規模まで拡大し、健康・環境配慮型の需要が高まっています。ヘンプクリートはこれら天然素材市場の一角に加わり、数十億円規模のシェア獲得が見込めるポテンシャルを秘めています。
行政がゼロカーボン建築や健康配慮型施設を推進する動きの中、小中学校や商業施設などで断熱材見直しが進んでいます。地方自治体による「地産地消の建材サプライチェーン」形成のモデルケースとしても注目されており、認可後の市場拡大が期待されます。
ヘンプクリートは、次世代省エネルギー建材導入、ZEH支援、地方自治体エコリフォーム助成、住宅ストック循環支援など、既存の補助金制度を活用して導入コストを大幅に削減できる可能性があります。
もしヘンプクリートが日本市場に受け入れられることになれば、エコ建材市場の成長は一層加速し、ヘンプクリートは断熱材市場で確固たる地位を築くと考えております。